天上の海・掌中の星 “秋の夜長に…”
 



 長くて暑かった夏休みが終わって、学生さんたちには行事が沢山詰まった“二学期”が始まった九月だが。秋の連休があるせいか、それとも間近になった10月には目白押しな、楽しい行事の数々への準備の方へと意識が既に飛んでいるのか。残暑が厳しいにも関わらず、そりゃあ賑やかに駆け回っているお元気さが、
「…ウチだけが特別なんだろか。」
 保護者のお兄さんへ、ついついそんな独り言をこぼさせている此処は、毎度お馴染み、

  「ゾロ〜〜〜〜っ! たっだいま〜〜〜っ!!」

 カシャーンっと開閉された門扉の軽い金属音を掻き消しつつの、玄関からの雄叫びも賑々しく。そんな自分のお声より早くという勢いで、お廊下をリビングまで駆けて来る腕白さんがご帰還の、モンキー=D=ルフィくんのお家。どたばた・どどどどど…っと、毎日毎夕、それはそれは賑やかなことなれど。それでも、
“小さな身の立てる音だから、軽快で小気味がいいもんだしな。”
 な〜んて丸っきり“身びいき”なことを思ってたりする、やっぱりどこかで過保護で甘い、緑頭の保護者殿。胸の裡
うちでのほこほことした想いとは裏腹、素知らぬお顔で待ち構えておれば。
「なあなあなあ、ゾロっ!」
 リビングに飛び込んで来たとほぼ同時。デイバッグの肩紐から腕を抜きつつ、聞いて聞いてと気ばかりが焦ってる、正に“仔犬の お尻尾振り振りvv”モードにて。ソファーにいたお兄さんのお膝へポ〜ンッと鮮やかにダイビング。
「俺、運動会の選手宣誓するんだってよ。今日のHRで“うんえー委員”のサカキに言われたんだvv」
「へぇ〜。」
 特に目立つのが好きだという訳ではないながら、お祭り騒ぎは大好きな子なので。それを盛り上げるものであるのならと、一も二もなく“合点だっ”と引き受けたに違いなく。
「ところで、いいかげんに“体育祭”って呼ばねぇか?」
「へ?」
 こないだもウソップが言ってたろうによ。お前がところ構わず“運動会、運動会”って連呼するもんだから、二年三年からはともかく一年坊主からまで笑われ通しだって。一年坊主にしてみれば、中学校までは“運動会”だったもんが“体育祭”って呼び方に変わって、背伸びの絶頂間にひたってるところ。なればこそ、先輩なのにま〜だ“運動会”なんて言ってるぜって、奇妙な優越感みたいなものを感じての失笑なんだろうと、そういう機微が判る人ばかりなら問題はないのだが。いかんせん、まだその一年坊と大差無い年頃のウソップ辺りでは、笑われるのが恥ずかしいに違いなかろうし、
「何だよ、間違ってないじゃんか。」
 大人も一杯参加する町内会のだって“運動会”だぞ? 大体“体育祭”なんて呼び方に変えるなら、中身も全く違うもんにするべきじゃんかよと。体育っていうのは学問とか教育って響きがあんだから、お遊び系統の種目は全部禁止にするとかさ、などと。さすがは高校生になったからか、ちっとは理屈を捏ねるようになったルフィさんだったりもし。
「でも、そうなったら詰まらなくはないか?」
 ですよね。それでは単なる“陸上&体操競技会”になりかねない。…だから“祭”がくっついているんだろうか? そうなったとしても、その“お祭り”色は応援合戦とかに限定されるんだろうから、やっぱり堅苦しい“競技大会”になっちゃいそうで、
「だから、運動会で良いんだっ。」
 う〜ん、う〜ん。賢くなったんだか、頑固になったのか。むいと膨れて…このお話はもう終しまいっと、視線が合わないように、向かい合ってた広いお胸へと顔を伏せてしまう腕白坊主であり。

  “…それでも、まあ。”

 妙に甘えたれで、人懐っこくて。自分をこの家に連れて来たような強引さはあっても、そういえば…無理強いにも似た“駄々”なんてもんは、あんまり捏ねなかった当初を思えば。こんな態度やお顔をするのは、赤子が少しずつ“自我”を主張するようになるのを見ているようで。それもまた擽ったい楽しさだと感じているお兄さんであるらしい。………やってなさいってのvv






            ◇



 小さな庭つきで二階建ての、ごくごく一般的な和洋折衷タイプ。昔風に言うなら“文化住宅”の一軒家。そんなありふれたこのお家に破邪さんが居着くようになってから、早いもんでもう4回目の秋を迎えることとなる。居候生活、足掛け3年ってとこですかね。
“…そっか。そんなになるんか。”
 いくら寿命が長い存在であっても、時間や年数への感覚は人とそんなにズレてはいないらしいゾロであり。何しろ人間と密接にかかわりあう立場にいる彼なので、例えば派手に戦った結果としてお山の一つも抉ったとして、
『…まあ、何百年か経てば、風化して全体が平らな土地にもなるんだろうし』
 それをもって“ノープロブレム”とされてはね。林を斬り払ってから、まあ何百年か経てば…以下同文、なんてことを続けられては、こちとら堪ったもんじゃない訳で。
“おいおい…。”
 あははvv 脱線も甚だしいですかね。
(笑) 意志ある者同士であり、且つ、遠い過去、神話の時代のどこかしらにて、接点があっての“お隣りさん”でもあるがため。地上界の制御者を“人間”と設定している彼らだから、その感覚もまた似たようなそれであるのは自然な話。しかも…こんな言い方はらしくないながら、まだまだ成長期のルフィと一緒にいるものだから、ほんの半年前とだって比較出来るほどに、少しずつながらの変化は拾えて、
“そいや、春に買ったスニーカーがそろそろキツイって言ってたよな。”
 背が伸びて体力も伸びて、ちょっぴり複雑な映画やお話の、登場人物それぞれの、想いや感情や役どころが理解出来るようになって来て。辛いものが少し平気になって、多少の口喧嘩くらいでは へこたれなくなって。そんな風に…日頃の連綿とした生活の中で はっと息を飲んで気がつくものでもない、そんなささやかな、さりげないものが多いもんだから。何かの拍子に気がついては、しみじみと“大きくなったんだな”なんて感慨にふけりもするのだそうで。…それって、親の気構えじゃありませんかね、ゾロさんよ。

  “………。”

 彼が見下ろしたその懐ろには、当の仔犬さんがいる。破邪さんの丸太のような腿の片方へ腰掛けての抱っこ態勢のまま、頼りがいのある隆とお肉の張った胸板へ…ふわふかな頬から肩から胸からと、頽れかけと言わんばかりの凭れ方にて寄っかからせて。蕩けかけの何かのような案配で、全身全てを預けてという凭れようにて…くうくうとうたた寝をなさっているらしく。
「…お〜い。」
 小さな声で呼びかけても、小さな肩とて ひくりとも動かない熟睡振り。ホタテと小エビとニンジンとブロッコリーの、少しとろみを強くしたホワイトシチューをオーブンで焼いての“焼きシチュー”に、表面がカリリとスパイシーで香ばしい、タンドリーチキン風のフライドチキン。キャベツにニンジン、キュウリといった、千切り野菜を塩で軽く揉み込み、ギュッと絞ってから細切りハムと混ぜた上、マスタードマヨネーズやオーロラソースで和えたコールスローサラダに…昨夜作り過ぎたらしい、大根と油揚げの煮びたしという、結構手の込んだラインナップの夕食をとったあと。食後のお片付けをしがてら、明日の弁当の下ごしらえにとお米を洗ってのセッティングを終えたゾロに、早速のようにまとわりついて来たのはいつものことだが、映画を観ようとかゲームをしようとか、携帯に取り込んだ画像を見せながら“今日はガッコでこんなことがあってよ”なんていう他愛ないお喋りを持ちかけるのでもなく。ちょっぴりもどかしそうに…急くように、こちらが座ったのへ身を寄せて来て、よじ登ったお膝へそのまま跨がってくると“ぎゅううっ”としがみついてまで来たのへは、さすがに気になって。
『どうしたよ。寒いのか?』
 窓を開けっ放しにしていたからね。お風呂前だが体が冷えたかなと、長い片腕で小さな肢体をくるみ込むように抱えてやりつつ、もう片方の手では…手のひらの側を仰向けにしての、人差し指の一振りにて。ちょいとずぼらではあったが咒を使って、少し離れたところから大きなサッシを音もなく閉じてしまったゾロであり。ついでにカーテンも引きながら、どしたどしたと懐ろの深みへ抱え込み、小さな背中を撫でてやったが、
『ん〜〜〜〜。///////
 丸ぁるいおでこをグリグリと、こちらの胸板へと揉み込んで来るばかり。駄々を捏ねてる訳ではなくて、けれど。お顔を覗き込んだり、小さな肩を引きはがそうとすると、いやいやとかぶりを振って、もっとくっつこうとする。もう十分に密着している身を擦り寄せて来、そこから中へと分け入りたいかのように、身を揉み込んで来る。聞き分けない子供のように思えて、

  “…ははぁ〜ん。”

 ある意味で愚図っているのだなと、やっと察したゾロの口許がほころんだ。陽のある内は、大人しくしていろと言っても聞かないし聞けない、そりゃあお元気な腕白小僧。好奇心が旺盛で、しかもその上、柔道の鍛練にて感覚の冴えと機敏さとを日々研磨している、バネのよく利いた身軽な体は、駆けっこも木登りも大好きな、今時には珍しいほどの“行動派”なもんだから。むずむず・うずうずし出したならば、その躍動はご本人でもなかなか止められない。そんな彼はだが、陽が落ちればあっさりと、そのテンションがどんどんと落ちてゆき、さして手もかけさせずに“おやすみなさい”モードへの移行を遂げてしまう“よい子”でもあって。

  ――― 構ってほしいの、でも、眠たいの。
      観たい映画はないけれど、やりたいゲームもないけれど。
      瞼が重くて、体もとろ〜んってして来てて。でも、あのね?
      何かして遊びたいから。
      あのサ、ゾロが揺すぶるとかして起こしててよ…と。

 どうしてほしいと思う想いも曖昧なままに、もっともっとずっと幼い、がんぜない子供みたいに。構って構ってという想いを伝えたくって、でも、どう言やいいのかが判らずに…何より体の方は“眠りたい”態勢に入りかけてて侭ならずで。そんなこんなでお軽く愚図っていらっしゃったのであり、
“もともとからして、口が達者って奴じゃあないしな。”
 常の腕白ぶりにて発揮されてる、ちょいと強引な言動だって、立派に子供っぽかったり、我儘なカラーも有りだったりするのにね。されどそちらは、胸を張っての自己主張。甘えというより、背伸びに近くて。もっと高みへもっと遠くへ。ほら凄いでしょと、肩越しに自慢げなお顔で振り返って来るよな、伸び伸びとした放埒さで。それに較べると、こんな甘え方の方は、言っちゃなんだが…ルフィのように前向きタイプの子であるならば、とうに卒業していて然るべきだろう“胎内回帰願望”にも似た種のそれではなかろうか。

  “……………そんなもん、ただの理屈だよな。”

 前向きで明るくて、それでいて…懐ろ深くて優しい子。独りぼっちの寂しさを誰よりも知っていたからこそ、同じ“独り”を放っておけなかった子。自分を心配するあまり、友達が作れない、自分のやりたいことが探せない兄に“平気だ”と屈託なく笑い、海でしか生きてゆけない不器用な父には“もう子供じゃないんだぞ”と何かにつけ言うようになり。甘えたい気持ちはあったけど、でも…相手の負担になるのはイヤだったから。我慢を強いることで、いつしか重荷に思われて嫌われるのが怖かったから。手のかからない子、心配なんて要らない子。うるさいくらいに腕白で、いつも元気だから大丈夫。笑顔を絶やさない子で、場が和みますよね。お勉強は苦手だったから、あのね? そんなカッコでの“いい子”でいようと思ったの。頑張ってた小さな坊や。お兄さん以外で親身に付き合ってくれた、ウソップくんっていう初めてのお友達が出来た時、泣いちゃったほど嬉しかったのは、きっと一生忘れないから。寂しがってる“見えない存在”へまでその胸を開いて、聞こえてるよ見えるよと受け入れていた困った子供。

  “自分が他の子らから弾かれてた、そもそもの元凶だってのによ。”

 それはそうなんだけどもサ、と。理屈がおかしいだろうがとゾロから叱られたのへと、まだ目許を真っ赤にしたままで、それでも“ぷくーっ”と頬を膨らませた、そりゃあ稚い坊やだったっけ。

  『甘えたいって時に、甘えていいんだって相手がいなかった子だからな。』

 文字通り“盆と正月”にしか戻って来られない、長期航路のどでかい船にばかり請われて乗船している航海士の父上が、先の夏休みに帰還した折に言っていた。
『昔は帰って来るたびに、全身から“嬉しい〜〜”って発散させて飛びついて来たもんだったが。』
 ここんトコは どうよ。けろっとした顔の、そりゃあ良い子のお行儀で“お帰り”って迎えるだけだわ、こっちから抱きつきゃあ“重い〜っ”とか何とか煩
うるさがるわ。揚げ句に、次の航海は何時から何処へなんだって、帰って来たばっかなのに訊きやがるわ。少なくとも寂しくはなくなったんだなってのがありありしててよ…と。相変わらずに暗示は効いているらしいまま、甥の一人だと認識されてた破邪殿、父上から岡焼き半分に絡まれるかどうかしたらしく。(苦笑)
『まま、俺は決して“良い父親”じゃあないからな。』
 家族は勿論大好きだったが、困ったことには海も大好き。しかもしかも、陸の上ではどんな簡単な仕事でも手際を覚えられない、集中が利かない。揚げ句、勝手をし過ぎて大失敗する困ったおじさん。長男坊のエースに訊けば、結婚前からそんなだったそうで、
『よくも結婚出来たよなぁって、俺でさえ思ったからな』
 息子に言われてりゃあ世話はなく。だってのに、そうまで大雑把で破天荒な性格が、どういう訳だか…海や船との相性となると、打って変わってあまりに良すぎ。今時の航海士なら、航行術やら海流・気流の知識に加えて、近年話題の急変する国際情勢やら異常気象やらに関しても先進のデータ・認識が要るだろうし、船自体もどんどんシステムは進んでおり、最新鋭の機器が扱えるだけの、やはり専門知識がなければ無理だってのに。これまた“好きこそものの何とやら”なのか、そういう方面ではちゃんと吸収出来、飲み込めるし、操れる現金な人。しかもしかも人心掌握だって、その豪快な人柄からはお茶の子だとかで。そうともなると、航海士としてのキャリアだって、黙ってたって上がって上がって。ただの無事故航海なんかじゃない、台風に遭おうが海賊に遭おうが、蹴散らし切り抜けての生還劇が多すぎる人なもんだから。それなりの船でのそれなりの仕事というオファーは引きも切らずという状態になって、その結果、長い長い航海ばかりをこなす身となってしまったお父様。どんどんと亡くなった妻に似て来る小さな坊やが、帰るたびに飛びついて来て、ぎゅうぅっと精一杯の思い切り、しがみついて来るのがそりゃあ愛惜しかった。ああ、このまま、此処で一緒に暮らしてやりたい。帰ってた間はずっとずっと、何処にも行かないでと言わんばかり、自分の後をついて回るこの子の傍らに、いつもいつまでも居てやりたかったのだけれども。それが出来なかった父親失格男には、つれなくなった子へ恨み言なんて言う資格はないからよと、殊勝に話をくくろうと仕掛かったところが、
『そん代わり、つれなくなった原因へは当たっていいと思うけど?』
 勝手に煽ったエースの言いようへ、それもそうだなとあっさり乗って。滞在中はずっとルフィを傍らに置き、家事はそのままゾロにお任せして、可愛い坊やを独占し続けた大人げないお父様だったそうであるが…それはともかく。(目に浮かぶようで…。/苦笑)

  “嫉妬される筋合いじゃないと、言い切れないから辛いとこだよな。”

 そんなルフィへと向いた自分からの思い入れが、子供の拙さ・非力さを、可憐だ哀れだと思っての、型通りな同情や何やではないから、これまた困ったものであり。
“そういう引きってのは、俺が居なけりゃこの子はどうなるんだろって思うもんだが。”
 そんな偉そうなことなど、一度も思わなかった。むしろ。この子が居なくなったら、俺はどうすりゃ良いんだと、冗談抜きにそうとだけ思ったことなら、そして…それへの切迫へ真っ青になったことなら、数知れない。あの、ただならない黒い負気をまとってた小生意気な邪妖と対峙した時も、その後の様々な雑魚共との、全力ぶつける戦いに臨んでいても。世のためとか人のためにどうのこうのなんてのを、大層にも“何よりも優先してぇ”とかってのは これっぽちも思ったことはない。面倒だが、俺にしか収められねぇなら仕方がないと、そのためにある存在なんだったら、動くしかねぇんだろうよと、そんな感慨しか持っちゃいなかった。始まりを忘れるほどにも長い長い永劫を、戦いながら永らえる身にはその方が良かれと、人と交わり、構われ、可愛がっていただいてた記憶をごっそりと、コウシロウ師範が持っていってしまったのは、ある意味で正解だったのだけれども。その判断に揺るぎなく、瞬殺の刃に迷いなく。それ以上もそれ以下もない仕事ぶりにて、淡々と使命にだけ奔走していられた自分であったのだけれども。

  ――― 声なき悲鳴に、見えない涙に。

 今にして思えば。途轍もない苦衷の中にいたルフィが、本人さえ気づかぬままに上げていた嗚咽を慟哭を、こちらもまた気づかぬまま拾っていたゾロだったのかも。それが専門なのだから敏感な筈のサンジでさえ気づけなかったものを、逆に疎い筈のゾロの方が感じ取れたのは。欠けていることにさえ気づいてはいなかった自分の中の空洞に、その切なさが抵抗なく染み入って。誰かと寄り添い合うことの切なくも優しい温かさ、もう一度染ませ直したいと感じたゾロの心が、あまりに深かったルフィの寂しさへと共鳴し合い、再覚醒したからだったのかも。

  「………ん。」

 むいむいと。どこかが痒いのか、くっつけたままなお顔をゾロのシャツへと擦りつける。すっかりと凭れ切っていることで、触れてる箇所は隙間さえないほどの密着状態になっていて。何度か目、緩い動きで擦りつけていた頬がずれて、前方へと倒れ込みかけたのを、素早く腕を伸べ、懐ろへと抱え直してやったれば。

  「//////////。」
  「起きてんじゃないのか? ルフィ。」

 むいむい・こしこし。違うもんとかぶりを振っているのか、それとも。まだどこかが痒いのか。柔らかな頬がいかにも子供じみた所作にて胸板へと擦りついてくるのが、くすぐったいやら…愛惜しいやら。髪の中へと指を埋め、大きな仕草で梳いてやりつつ、少しほど首を傾けて耳元で囁いてやる。
「なあ。実は起きてるんならよ。二階のベッドまで寝かしに運んでってやるから、一旦抱え直させろ。」
「………………。///////
「そっか。このままで良いんか。」
 ふ〜〜〜ん・そかそかと、意味深に応対を引き伸ばしてから、



   ――― じゃあ、おやすみのキスもいらねえんだな?


   「……………………………。」


 やっぱり坊やは瞼を上げないまんま。あんまり懐いておらっしゃるのが、実は実は面白くなかったか。ふとした思いつきで、金髪碧眼の誰かさんの真似をしてみた破邪殿だったが。応答がなければ…自分に跳ね返ってくる羞恥の棘が痛いったらなかったりし。
(笑) チッしゃあねぇなと照れ隠しの溜息混じり、窮屈そうに身を屈め、出来るだけ揺らさぬようにと坊やの肢体を抱え直そうとしたところが。


   「………キス、してほしい。////////


 小さな小さなお返事は、もしかしたなら…小さすぎて届かなかったからと、言い直されたものかも知れずで。ハッとして見下ろした懐ろには、頬っぺは言うに及ばず、耳朶からうなじから、真っ赤っ赤〜〜〜///////に朱を散らしてる、愛しい坊やが…大きな眸を潤ませての上目遣いでこっちを見ていたからね。


   「…………ぞろ?」

   「お、おう。////////


 色気なんてナイナイなまんま、それでもお顔をそぉっとくっつけあった可愛らしいお二人へ。窓の外に締め出されちゃった、今宵は三日月だったお月様。そんなお返事がありますかいと、何とも愉快そうに目を細めておいでなようにも、見えたそうです、ええはいvvv






  〜Fine〜  05.9.22.〜9.25.

  *カウンター 189,000hit リクエスト
     ひゃっくり様
        『シャンクス父やエース兄が帰って来ていての一家団欒の図』


  *そういや ろくすっぽ“在宅中”の描写はないご家族で。
   エースはまだ、ゾロたちとご対面しての活躍話もありますし、
   あの『黒鳳凰』のお話にも、ちらりと出ていただいておりますが。
   シャンクス父さんに至っては、
   ト書きで“こんなことをした、言った”という描写があるばかり、
   ご本人は、年がら年中“海の上”でしたものね。

   …………で。

   おかしいなぁ。
   どんな弾けたお話にしてやろうかと、ワクワクしもって書き始めた筈なのに。
   ななな、なんだかメロウなお話になってしまったようでございます。
   しかも、お父様もエースも出て来てないも同然だし…。
   こんなではダメですかね? ひゃっくり様…?

ご感想などはこちらへvv**

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